カテゴリー「書評」の2件の記事

2017年12月25日 (月)

彼女を守るため僕は犬になった / 相羽奈美の犬 1巻、2巻(完)

 主人公は、ニートでストーカー。こう書くと、字面だけは横文字職業みたいですね。
 ストーカーの対象は、相羽奈美という女子高生。でも、危害を加えることもなく、そっと見守るだけのつもりだ。ストーカーはみんな最初そう思っているだろうけど。
 ある日、奈美の危機を救おうとして、車に撥ねられる。死を覚悟したとき、主人公は奈美の犬になることを望む。なんでだよ!幸運にも(?)その願いは叶えられ、主人公は奈美の飼い犬となるのでした。

 この作品を、Kindleのホラー漫画フェアで購入しました。でも、ギャグ漫画でした。
 一応、主人公犬が人を噛むと噛まれた人は犬になってしまうとか、主人公を犬に変えた禍々しい感じの犬の怨霊が出てくるとか(完全にツッコミ役ですが)、多少はホラー要素があるけどギャグ漫画です。
 主人公が元ニートであったことと今は犬であることを自虐ネタにすることがメインのギャグです。

 でも、何だか上手くまとめられていて、面白いんですよ。
 基本的には一話完結型の構成で、一話一話にオチがついて、ちょっといい話っぽくまとめられています。
 人としてダメな奴は犬になってしまえ的な流れで、出て来る悪い奴には救いがないんですが、でも・・・という感じで良い読後感が残されるという。
 その上で、全二巻全体としても一つの話としてキレイにまとめられています。全体として伏線を張りつつ最後はきちんと回収しています。
 本当に「上手い」という表現がぴったりな感じの作品です。

 なんだろう、安かったので暇つぶしのつもりで購入したら良作だったという、得しているはずなのに何だか悔しい感じがします。
 主人公がニートでストーカーで犬野郎なのに、ちょっと感動させられた自分が悔しいんでしょうね。

 予想外の面白さで気になり、作者 松田洋子さんの作品にどんなものがあるか確認してみたのですが、「ママゴト」を描いた方でした。私は読んでいませんでしたが、「ママゴト」は発表当時話題になっているのを見かけたことがあり、題名は記憶にあります。ちなみに「ママゴト」は2013年の日本漫画家協会賞で優秀賞を受賞されています。
 他の作品も長い作品はなく、せいぜいコミックで3巻が最長ぐらいです。多くの作品は評判も良く、やっぱり力のある作家さんでした。

 松田洋子さんの他の作品を確認していたら、KADOKAWA系のマンガが安くなっていたので、「ママゴト」と他一作を購入してしまいました。
 今から読むのが楽しみです。

2016年3月22日 (火)

【書評・ネタバレ】ハンガー・ゲーム

 政府に支配され搾取される十二の地区の一つに住む少女カットニスが主人公のSF作品。
 この世界では、支配の象徴として、十二の地区から選出された男女一名ずつの少年少女に最後の一名になるまで殺し合いを行わせるゲームが行われている。それが、ハンガー・ゲーム。
 今年、第十二地区の参加者に選ばれた妹の身代わりとなって、カットニスはハンガー・ゲームに参加するのであった。

 …というのが、ハンガー・ゲーム第一作の冒頭。
 ハンガー・ゲーム(1)~3の三作構成で、最後まで読了済みです。

 極度な管理社会、大きな格差、殺人ゲームが娯楽として放映されるというのが、リチャード・バックマン(スティーヴン・キング)の「バトルランナー」を連想した。
 読む前は、ハンガー・ゲームでの戦闘がメインだろうという印象を持っていましたが、実際は戦闘前後に多くのページが割かれています。ハンガー・ゲーム自体が、この作品の核であり、常にそれを中心に話は展開されるのですが、戦闘自体の描写は意外と少なめです。

 作品内の語り口は三人称ですが、描写は一人称範囲でカットニスの周りで起こったこととカットニスの内面しか描かれません。カットニスが見聞きできる埒外で発生した事柄は描かれないので、そのことも戦闘に関わる描写が少ない原因でしょう。カットニスには見えないところで、ハンガー・ゲームの参加者がどんどん脱落していきます。
 また、外から意味深な差し入れが行われたり、ルールが変更されたりと、闘技場外で何かが展開しているのですが、それもカットニスの推測の範囲でしか描かれず、確かなことが分かりません。
 記述は三人称なのに内容は一人称という表現方法は、他の作品でもあったように思うのですが、ここまでそれを意識させられたのは初めてです。作品世界が広がりそうで広がらない、ずっと一人の視野に縛られるというのが、違和感というか気持ち悪さというか、見通しが悪いという感覚を最初から最後まで感じ続けました。題材からすると純粋な三人称が当たり前だという勝手な思い込みがあり、それとのギャップが違和感になっているのかもしれません。

 ハンガー・ゲームは多人数参加なので、話を盛り上げるために参加者達の背景や内面を掘り下げたり、個々の戦闘場面が描かれそうなのですが、前述の表現方法もあり、主人公が関わり当人から知り得た内容以上には語られません。また、「最後にラスボスとの戦い」のような構図もありません。
 人間同士の戦闘よりも、戦闘のフィールドに設置された仕掛けと対峙するという場面が多くあります。この仕掛けに独特なモノが多いというのは、この作品の特徴の一つでしょう。
 一部残虐なシーンもありますが、戦闘に関しては全体的に淡白な印象となっており、熱い戦闘を期待すると肩透かしに感じそうです。
 基本的にカットニスの葛藤を軸に、ストーリーが進んでいきます。あと、恋愛要素も強めです。

 1~3と三作品に分かれていますが、何れも「ハンガー・ゲーム(※)前の準備」→「ハンガー・ゲーム(※)の戦闘」→「ハンガー・ゲーム(※)の結末・エピソード」と構成されています(※ 3ではハンガー・ゲームでなくキャピトル突入に置きかわりますが)。構成は似通っていますが、それぞれの戦いの意味や迎える結末は三作で異なりますので、読者が持つ感想は作品毎に変わると思います。

 繰り返しになりますが、過激な戦闘はあまり期待できません。また、海外SFに多い重厚な内容でもありません。登場する科学技術などにリアリティはなく、どちらかといえばなんでもありでファンタジーに近いです。
 でも、殺人ゲームを娯楽として楽しむような異常な社会の不気味さや理不尽さ、その中で生きようとし大切な人たちを守ろうとするカットニスの葛藤、ハンガー・ゲームに登場する奇妙で邪悪な仕掛け…と、物語として楽しめる箇所は多くあります。特に、カットニスが非常に魅力的な主人公として描かれていると思います。

 カットニスは最初に一つの花を守るため立ち上がり、過酷な運命に踏み込みます。必死にもがきなんとか生き延びたというのに、ある悪意によってその花は散ってしまいます。彼女は悪意の元に対し、その報いを与えます。
 一つの大切な花は失ってしまいますが、もう一つの花を取り戻してこの作品は幕を閉じます。

 カットニスにとっては必ずしもハッピーエンドとは言えず、明るくすっきり読了できる最後ではありませんが、興味があれば是非読んでみて下さい。

 ちなみに、映画化されているのを読了後に知りました。ハンガー・ゲーム3だけ2作に分かれており、映画は全4作構成です。2015年11月に完結編が公開されています。
 映画の公式サイトを見に行って紹介動画を見ましたが、映像として高いレベルで原作を再現しているようでびっくりしました。もちろん紹介用の短い動画なので、興味を惹く出来の良い部分をつないでるとは思うのですが、原作を読んで想像していた画が展開されているように見えました。すごく観たくなりました。


ハンガー・ゲーム(上) (文庫ダ・ヴィンチ)

ハンガー・ゲーム(下) (文庫ダ・ヴィンチ)

ハンガー・ゲーム2 上 (文庫ダ・ヴィンチ)

ハンガー・ゲーム2 下 (文庫ダ・ヴィンチ)

ハンガー・ゲーム3 上 (文庫ダ・ヴィンチ)

ハンガー・ゲーム3 下 (文庫ダ・ヴィンチ)